本研究の主要手法の一つである定点連続観測を用いた変形機構の解明を目的として、新潟県上越市の伏野地すべり試験地内に設置した2箇所の孔内多層移動量計の日観測結果を元に、地すべり土塊の変形過程を2年間にわたり解析し、以下の結果を得た。 地すべり移動は、降雨と融雪の増加する秋期から積雪初期にかけて増大し、それにともなって土塊は引張側に変形(膨張)した。積雪期になり積雪層が発達すると地すべりは一時的に停止するが、続く融雪期には再び緩慢な変位が生じた。しかしこの時の変位量は、土塊の上部-下部間でほぼ等しく、地すべり土塊は変形せずに一体となってすべり面上を滑動した。このように地すべりの移動にともなう土塊の変形は、秋期から積雪初期にかけてと融雪期の2期間で対照的な様相を示した。移動にともなう地すべり変形特性が期間によって異なる要因を明らかにするため、降雨、融雪量と変形量の応答特性を全期間にわたって解析した結果、秋期から積雪初期にかけての引張変形の増大要因は、誘因である絶対降雨、融雪量に加え、降雨、融雪に対する応答変形が鋭敏化するためと考えられた。 地すべりの変形が積雪環境に強く影響を受ける観測結果を踏まえ、その変形機構を無限長斜面の安定解析等による物理的側面から検討した。その結果、地すべりの変位、変形を抑制する要因は以下の3点によると考えた。1)積雪載荷がすべり面のせん断強度の増加をもたらし、積雪期の変位、変形を抑制する、2)積雪層が地表面を間接的に連結するネット効果を発揮し、積雪期の変形を抑制する、3)積雪期の長期的な積雪載荷がすべり面を圧密し、これにともなって回復したせん断強度の効果が春期から夏期にわたって継続的に発揮され、同期間の変位、変形を抑制する。
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