我が国で発生する山地災害の中で地すべりは発生時の災害規模が大きいため、有効な対策は早期の警戒避難であるとされている。適切な警戒避難基準を確立するためには到達範囲の予測に結びつく、地すべり土塊の運動機構の解明が重要である。これまで地すべり土塊は運動時にほとんど変形しない剛体と見なされてきたが、実際は移動にともなって土塊が変形することが経験的に知られており、近年は調査、対策に資するため地すべり土塊の変形機構の解明が求められている。 本研究では、新潟県上越市の伏野地すべり地の変形機構を解明するため、地すべり地内に設置した3基の孔内多層移動量計により得た10分間隔の観測データをもとに、一次元変形解析および軌跡解析によって新潟県中越地震発生時に運動した地すべり土塊の変形課程を解析した。 地震直後における地すべり土塊の変形課程は斜面の勾配によって異なった。急勾配斜面では地震直後に鋭い圧縮変形が生じたが、地震後1時間が経過すると逆に引張方向に転じ、約12時間後に4.0×10^<-5>程度の引張変形量をもって変形を停止した。これ対して緩勾配斜面では地震直後に大きな引張変形が発生し、その後のわずかな庄縮変形を経て約12時間後に約1.5×10^<-4>(引張方向)の総変形量をもって変形を終了した。中越地震による土塊変形量は秋期から積雪初期にかけての降雨、融雪による総変形量(約3×10^<-2>)の約0.5%であった。このように、地震時の地すべりの変形運動は地震後0〜12時間にわたって継続し、若干の圧縮変形と引張変形の双方で構成されていることが明らかとなった。
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