本研究では、霊長類のサブテロメア領域の比較ゲノム解析を行い、種間で保存された領域と種特異的な領域を識別し、それぞれの領域に位置する遺伝子の同定、遺伝子と表現型との関連性を明らかにすることを目的として研究を行なった。 本年度は、昨年度に引き続き、ヒトとチンパンジーの比較解析、特に、チンパンジーのサブテロメア領域の詳細な解析を行った。昨年度の解析から、チンパンジー21番染色体のサブテロメア領域の構造は、ヒトに比べて160kbほど長いことが明らかになっていた。そこで、チンパンジーで拡張している領域のゲノム配列を用いて相同性検索を行ったところ、ヒトの9番、10番、2番染色体の一部と高い相同性を示すことがわかった。さらに、この領域の配列の反復配列の分布を調べたところ、SINEやLINEなどのレトロトランスポゾン由来の散在性反復配列に加え、様々な種類のサテライトリピートの存在が明らかになった。また、チンパンジーで拡張した160kbの領域における、遺伝子の有無を明らかにするため、この領域のゲノム配列を用いてアノテーションを行ったところ、ヒトの糖鎖転移酵素をコードする遺伝子と相同性を示す領域を見出した。この遺伝子が、チンパンジーにおいて発現しているかどうかを明らかにするため、チンパンジー由来の培養リンパ芽球からmRNAを抽出し、 RT-PCRにより発現性を調べた。その結果、PCR産物が得られ、チンパンジーのリンパ球において、ヒトの糖鎖転移酵素ホモログが発現していることが示唆された。本研究から、チンパンジーサブテロア領域に見いだされた糖鎖転移酵素遺伝子ホモログが、ヒトとチンパンジーの表現型の相違に関与している可能性が明らかになり、この遺伝子の機能解析を進めることにより、サブテロメア領域に位置する遺伝子のヒトとチンパンジーそれぞれに及ぼす分子遺伝学的な意味づけができると期待される。
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