本研究プロジェクトでは、ヒトレトロトランスポゾンL1にコードされているタンパク質のひとつ、ORF1pの細胞機能の同定を目指している。具体的には、ORF1pの細胞内過剰発現がインターロイキン8(以下、IL8)遺伝子の細胞内mRNA量の上昇をひきおこすという、本プロジェクト以前に行った予備実験の結果を今子生物学的に説明するために、以下の実験を行った。 (1)ORF1p過剰発現時のIL8プロモーター活性の測定: ルシフェラーゼのコード配列の上流に、長さの異なる3種類のIL8プロモーター領域由来DNAを組み込んだレポータープラズミドを作成した。これらプラズミドと、ORF1p過剰発現用プラズミドをHela細胞に共導入し、1および2日後に細胞を溶解し、ルシフェラーゼアッセイを行った。その結果、ORF1p過剰発現によるルシフェラーゼ活性の上昇が見られず、ORF1pプラズミドの代わりにTNF-alphaを培地に加えてIL8プロモーター活性を上昇させたポジティブ・コントロール実験よりも有為にその活性量は低かった。この結果から、IL8のmRNA量上昇はIL8プロモーター活性の上昇に起因しないことが明らかとなった。 (2)ORF1p過剰発現時のIL8のmRNAの細胞内寿命の測定: (1)の結果から、IL8のmRNA量の上昇がmRNA分解速度の減少による可能性が高まった。そこで、本年度はルシフェラーゼのコード配列の下流に、IL8のmRNAの3'UTRのARE(AU-rich element)を含むDNAを組み込んだレポータープラズミド作成を完了した。 本研究プロジェクトではさらに、ガン組織でのORF1pの発現増減の有無を検証することを目的に、その準備段階であるORF1pに対するポリクローナル抗体の作成を目指している。本年度はエピトープとなりうるORF1p部分欠失体の発現用プラズミド作成を行った。
|