これまで行われているDNAによる診断は有用であるものの、個人の遺伝情報を読むために倫理的な問題があり、さらに特定の病気にとって重要な環境要因について十分な情報を得ることができないなどの問題を含んでいる。今回我々が開発したRNA血液診断法は問題となる遺伝子の発現量を評価するもので、本法ではこのような問題発生の可能性は低い。我々は本研究期間中に血液中の末梢血単核細胞(PBMCs)から抽出したRNAの発現量に着目した新規の診断法を確立した。 具体的には、PBMCsでは発現亢進しているがヒト繊維芽細胞(TIG-1)ではほとんど発現していない290遺伝子を同定し、これらの遺伝子をPREPと名付けた。これらの遺伝子群の内50遺伝子は未解析遺伝子であった。我々は7例の小血管壊死性血管炎であるチャーグ・ストラウス症候群(CSS)という自己免疫疾患患者の血液から抽出したPBMCs由来のRNAを用いた選抜アレイ解析を行った。その結果、微生物の感染後にマクロファージなどによる免疫反応を介した分解防御が起こった形跡と考えられるPREPI35(coactosin様タンパク質)、PREP77(プロサポシン)、PREP191(カテプシンD)、PRPE234(c-fgr)、およびPREP136(リゾチーム)の発現亢進を7例のCSS患者すべてにおいて見出した。別の28遺伝子(これらの幾つかは免疫応答や炎症関連遺伝子)も緩やかながら発現が亢進していた。一方、3遺伝子については、すべてのCSS患者で発現の減少が見られた。 これらの結果はPBMCsの選抜マイクロアレイ解析が実用的であり、また低コストでもあることから、臨床の現場で利用できる診断ツールとなりうることを示唆している。
|