海洋産抗腫瘍性物質アプリロニンAと細胞骨格タンパク質アクチンの複合体の結晶構造が明らかになっている。そこで、結晶構造に基づき、アクチンとの親水的な相互作用に重要な部分が集中しているアプリロニンA側鎖末端部分を含む分子を合成した。前年度までの研究から、アクチンとの相互作用には親水的な相互作用だけなく、脂溶性の相互作用も重要であることが分かったので、メチレン鎖を延長し、芳香環を含む分子を合成したところ、活性が向上し、最も強いものはアプリロニンAの約13分の1の活性を示した。ヘテロ芳香環としてオキサソール環を導入した分子も合成したが、アクチンに対する活性はむしろ下がった。一方、腫瘍細胞に対して細胞毒性試験を行ったところ、10μg/mLにおいても細胞毒性を示さなかった。各種抽出エキスなどに、この人工分子を添加して細胞毒性試験を行い、作用の増強が見られるかどうかについて現在検討を進めている。 また、アプリロニンAと同様にアクチン脱重合活性を有する海洋産マクロリド、レイジスポンジオライド類の合成研究を行った。レイジスポンジオライドAもマクロラクトン環と側鎖部からなる分子であり、アクチンとの結晶構造はアプリロニンAのものと非常によく似ている。 Patersonアルドール反応、クロチルボレーション反応(Roush法)、および立体選択的還元反応を鍵反応として、側鎖部分の合成を達成した。また、マクロラクトン部に対応する2つのセグメントを合成した。今後、各セグメントの連結を検討する。
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