本研究では、アミノグリコシド抗生物質の生合成酵素を利用した新規有用物質の創製を念頭におき、ブチロシンとネオマイシン生合成酵素の機能解明を行った。本抗生物質群の大部分が有するアミノサイクリトールである2-デオキシストレプタミン(DOS)ば、ネオマイシン生合成遺伝子クラスターにコードされるNeoC、NeoB、NeoAにより構築されることは前年度に明らかにした。今年度はまず、NeoDがDOSに対する配糖化を、NeoLがつづく脱アセチル化反応を触媒してパロマミンを生成することを明らかにした。パロマミンからネアミンヘの変換反応は、NeoGとNeoNが触媒することを英国のグループが先に報告したが、同時期にこれら酵素活性の検出に成功した。ネアミンからリボスタマイシンへと至る反応については、ブチロシン生合成遺伝子クラスターにコードされる酵素を用いて検討し、BtrLがホスホリボシル化を、BtrPがつづくリン酸エステル加水分解を触媒することが明らかとなった。さらに、ネオマイシン全生合成酵素の機能解明を目指し検討した結果、相同性検索からは機能推定が困難であったNeoKが最終段階の配糖化を触媒することが明らかとなった。また、NeoLがこの配糖体の脱アセチル化も触媒することが明らかとなった。さらにその生成物が、NeoGとNeoNによりネオマイシンCへと変換されることも見いだした。すなわち、これら生合成酵素を用いることで、グルコースー6-リン酸からネオマイシンCを酵素的に全合成することが可能となった。 本研究過程においては、BtrLとBtrPを用いてリボスタマイシン類総体を創製することにも成功した。また、ブチロシン生合成における2-デオキシ-scyllo-イノサミン脱水素化酵素反応を、ラジカルSAMタンパク質であるBtrNがラジカル反応機構により酸化することも見いだすことができた。
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