胚性幹細胞(ES細胞)は、生体内のあらゆる器官・臓器へと分化出来るという特色を持ち、これまでにも、試験管内において様々な細胞系列への分化法が報告されている。しかしながら、それらの多くは操作が煩雑であったり、高価な液性因子を必要としたりといった欠点があった。そこで本研究計画においては、安価に大量合成も可能な小分子有機化合物を利用することによって、ES細胞のある特定の細胞系列への特異的な分化誘導を試みている。その過程で、ES細胞をドーパミン産生神経へと分化させる化合物、101D7を見出した。 本年度は、この101D7の作用を増強させる目的で、その誘導体を合成した。すなわち101D7の、ヘテロ環につく官能基の変換、ベンゼン環につく官能基の修飾、及びリンカー部位二重結合を還元することによる自由度の向上、の三点に留意することによって、15種類の誘導体を系統的に合成していった。現在、それぞれの誘導体における神経分化誘導活性の増減を確認中である。 さらに、サブトラクション法を用いることによって、101D7によって発現誘導される遺伝子の同定を行った。未処理の細胞、及び101D7で6時間、あるいは48時間処理した細胞よりmRNAを抽出し、サブトラクション法に対するサンプルに供した。サブトラクトされた遺伝子をクローニングし、そのうちの300個について塩基配列の決定を行った。その結果、機能既知の液性因子を一種類、機能が未知である分泌タンパク質を二種類、そして亜鉛フィンガーを持ちDNA結合タンパク質と考えられるタンパク質一種類を同定することに成功した。現在、それぞれの遺伝子について、そのES細胞からのドーパミン産生神経への分化における機能について解析中である。
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