胚性幹細胞(ES細胞)は、生体内のあらゆる器官・臓器へと分化出来るという特色を持ち、これまでにも、試験管内において様々な細胞系列への分化法が報告されている。しかし、それらの多くは、高度な技術や高価な液性因子を要するため、誰もが簡便に利用できるという手法では無かった。そこで本研究計画においては、取り扱いが簡便であり、安価に大量合成も可能な小分子有機化合物を利用した、ES細胞のある特定の細胞系列への特異的な分化誘導を試みている。その過程で、ES細胞をドーパミン産生神経へと分化させる化合物、101D7を見出した。 本年度は、まず作成した15個の101D7誘導体の活性を検討した。その結果、101D7ほどの活性を持つものは得られなかった。そこで、さらに8個の誘導体を作成したところ、101D7と同程度の活性を有するものを見出した。 また、DNAサブトラクション法によって見出した3つの遺伝子のうち、分泌蛋白質と考えられるもの一つについて解析を進めた。大腸菌を用いて組み替え蛋白質を作成し、ES細胞に対する分化誘導活性を調べたが、顕著な効果は認められなかった。さらに、この蛋白質に対する抗体を作成しろ、細胞における局在を確認したところ、分泌蛋白質というよりはむし、細胞表面に存在する膜蛋白質であることが明らかとなった。大腸菌による組み換え蛋白質に顕著な効果が見られなかったのは、膜蛋白質を無理に可溶化させたため、その構造が壊れてしまったためかもしれない。そこで、この蛋白質の細胞外ドメインと考えられる領域について、組み換え蛋白質を作成し、ES細胞に対する神経分化誘導能を検討している。
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