研究概要 |
抗真菌物質アンフォテリシンB(AmB)は、細胞膜中でステロールと共にイオンチャネル複合体を形成して活性を発現するといわれているが、その構造は未解明である。AmBはリジッドなマクロリド骨格にヘプタエン発色団を有することから,UV/CDスペクトルを用いた構造解析が数多くなされている。AmBの脂質膜中での濃度が上昇すると、ヘプタエンの振動構造に由来するUV吸収が減少し、代わって短波長側に新たなUV吸収が現れる。また、その吸収に対応する大きな負の分裂型CD吸収も現れ、それらスペクトル変化が複合体形成の指標とされていた。しかし、脂質膜中でのチャネル複合体とUV/CDスペクトルの相関は正確にはわかっていない。 私はAmB-ステロール共有結合連結体を用いた固体NMR解析により、チャネル形成時にステロールがヘプタエン部分に近接していることを観測することに成功している。そこで連結体のeggPC膜中でのUV/CD測定を行った。膜サンプル調製の際、AmBをリポソーム形成前に添加することで、膜に結合していない会合体AmBの影響を排除した。測定の結果、連結体は新たなUV吸収や大きな分裂CDを示さず、モノマーのスペクトルに類似していた。チャネル活性試験と比較した結果、強い活性を有するほど短波長に現れるUV吸収や分裂型CDの強度が減少する傾向が認められた。ステロールが近接することでAmBのヘプタエン同士の相互作用が妨げられると考えられ、従来の解釈とは異なり、チャネル形成時にはモノマーに類似したスペクトルを示すこと、さらに分裂型CDはチャネル形成以外のAmB相互作用に起因することが示唆された。
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