エラジタンニンは植物が生産するポリフェノールの一種であり、一般に抗酸化活性を有することから、様々な慢性疾患の予防などへの応用が期待されている。しかし化合物の詳細な生理活性調査を行う上で、天然からの試料供給のみでは、季節性や含有成分の複雑さ等の問題がある。従って、安定かつ純粋な化合物の量的供給を可能にする有機合成法の開発が求められている。エラジタンニンはグルコースの水酸基がエステル結合した構造を有しているが、アノマー位のエステルの立体配座はβ配向であるものが多いため、高立体選択的なグリコシルエステル構築法の開発が求められた。しかし、アノマー位の立体制御に汎用される隣接基関与法では、2位に導入したアシル基の選択的脱保護に問題がある。ところで当研究室では、ピラノースの配座制御に基づく高立体選択的グリコシル化を開発した。すなわち、グルコースの隣接する水酸基を嵩高いシリ基で保護することで配座をアキシャルリッチに制御した糖供与体は、アルコールとのグリコシル化を行うと、高β選択的にグリコシドを与える。そこで、糖受容体としてカルボン酸を用いて検討を行った結果、高立体選択的にグリコシルエステルを与える条件を見出した。この知見を用い、エラジタンニンの一種である、ピラノースがアキシャルリッチ配座を有する天然物ダビジインの改良合成法を確立することに成功した。今回開発した高立体選択的グリコシルエステル調製法は新しい方法論として、新たな展開が期待される。
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