放線菌Streptomyces coelicolor A3(2)の生産するベンゾイソクロマンキノン系抗生物質アクチノロジン(以下ACTと表記)の生合成における真の酸化・水酸化機構を解明するため、遺伝子の塩基配列情報からこれまで水酸化酵素と考えられてきたactVA-5について、その遺伝子破壊体の代謝産物を分析した。 S.coelicolorはACTに加えREDと呼ばれる他の抗生物質を生産する。REDの生合成遺伝子破壊体M510株を標準株とし、そのactVA-5破壊体を(独)食品総合研究所・岡本晋博士からご供与いただいた。両菌株を同条件で液体培養し、培養後の菌体及び培地上清中の代謝産物を分析したところ、actVA-5によりACTが生産されず"X"と名づけた別の化合物が主生成物として蓄積されることを見出した。化合物Xの吸光スペクトルはこれまで得られたACT生合成中間体・shunt productsとは異なるものであり、新規化合物であることが示唆された。LC/TOF-MSを用いた精密質量分析から分子式はC_<32>H_<26>O_<10>と推定され、化合物Xは中間体(S)-DNPA (C_<16>H_<14>O_5)の二量体である可能性が浮上した。化合物Xが酢酸エチルに抽出されることを予試験で確かめた後、1Lの液体培養から2Lの酢酸エチルにて抽出し、HPLC分取により約5mgの化合物Xを単離精製した。これをDMSO-d6に溶解しNMRを測定したが、サンプルの見た目に反して溶解度が悪いようで解析可能なスペクトルは得られなかった。溶解度を増大させるため新たに得た粗抽出物についてメチル化反応を行い、化合物Xが問題なくメチル化されること、その際に分子量が28増えることを確認した。今後はこのメチル化体を精製し、NMRの測定結果から構造を決定する。 また、平成18年6月下旬の国際学会(GIM)に参加しこれまでの成果を報告するとともに、ドイツ・フライブルク大学Andreas Bechthold教授と実験について打合せし、当初の計画通り抗生物質ランドマイシンAの生合成遺伝子lanZ5をご供与いただくことができた。
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