種々の生物のゲノムプロジェクトが終了し、膨大な情報と材料をもとに世界中で様々な角度から研究が行われている。中でも期待されているのが創薬への応用であるが、膨大な遺伝子の中から創薬標的分子としてふさわしいものを見出すのは困難である。そのため、特異な生理活性を示す化合物の標的分子を同定する化学遺伝学はポストゲノム時代の重要な研究領域であると世界的に認識されつつある。現在まで、生理活性物質の生体内標的分子を決定することにより、生物学上の重大な知見が次々と明らかとなり、時として新薬の創製を加速してきた。 最近、化学遺伝学をゲノムワイドに拡張した方法論として化学ゲノミクスが注目されている。これは、低分子化合物と相互作用する遺伝子産物をゲノムワイドに明らかにする方法論である。申請者は所属研究室で作製された分裂酵母の全ORFの過剰発現株コレクションを用いて抗真菌化合物theonellamide類の作用機序の解明を進めている。すでに、theonellamide Fに対する感受性を全ての過剰発現株に対して測定し、耐性化あるいは超感受性化をひきおこす数十の遺伝子を同定しており、本年度はそれを足がかりに本年度は研究を進めた。 同定された遺伝子群には、細胞の形態維持あるいは膜輸送に関連する遺伝子群が多く含まれていたため、theonellamide Fによって劇的な形態変化が起こることが期待された。そこで、種々の蛍光色素を用いて顕微鏡観察を行ったところ、特定のオルガネラと細胞壁とに興味深い変化を見い出した。つぎに、同定された遺伝子群をその遺伝子産物の細胞内局在情報で統計解析を行ったところ、細胞膜あるいは隔壁に局在するタンパク質が優位に含まれていることが判明した。そこで、上述の形態変化は細胞膜あるいは隔壁に存在する標的分子によって引き起こされていると推測された。事実、蛍光標識体を調整して局在を観察したところ、成長端と隔壁が特異的に染色されることが明らかとなった。現在は、これらの情報をもとに標的分子の同定を試みている。
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