今年度は、当研究室で開発された、転写と複製で機能する人工塩基対(Ds-Pa、Ds-Pn)を用いて、転写で人工塩基取り込み選択性に効率に影響を及ぼす人工塩基近傍のDNA塩基配列の網羅的解析に取り組んだ。Dsの両側4塩基をランダムにした塩基配列を含むDNAライブラリーを調製し、(1)蛍光基(FAM)を結合したPa(FAM-Pa)の基質存在下で転写を行い、(2)得られた転写産物からFAM-Paを含むRNAを抗FAM抗体により単離し、(3)このRNAをDs-Pnの基質存在下でRT-PCRを行って(1)に必要な鋳型を調製する、というセレクションを繰り返した。その結果、最初のDNAライブラリーから転写された産物中へのFAM-Paの取り込みは、その蛍光強度から判断して効率良く進行したが、2ラウンド目の転写でFAM-Paの取り込みが大きく減少し、3ラウンド目以降で再び効率は上がるが最初のラウンドの取り込み効率の高さまで濃縮されていないことがわかった。これは人工塩基が天然型塩基に置き換わった核酸断片が混入した結果と考えられた。そこで、天然型塩基のみの核酸断片を確実に除くステップを加えることにより、実験系を改善することにし、今年度後半は、天然型塩基のみのDNA断片が過剰に存在するDNAライブラリーから、FAM-Pnを含むDNA断片を効率よく選択する条件の確立に重点的に取り組んだ。一方、3ラウンドのセレクションを行った後に得られたDNAの塩基配列を解析した結果、昨年度実施した複製でのセレクションと異なったDs近傍の配列が得られた。本研究課題で実施した以上の結果より、人工塩基対近傍の天然塩基の配列が、複製や転写における人工塩基対の取り込みの選択性に大きく関与していることがわかってきた。
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