近年爆発的に進展した細胞死研究の中で、「アポトーシス」は細胞が自ら死へと至る能動的な死として注目され、その特徴的な形態変化と共にその分子機構が詳細に解明されてきた。これとは対照的に「ネクローシス」は、細胞が外界から物理的傷害を受けた時に誘導される受動的・非生理的な死として位置づけられてきた。しかしながら最近様々な疾患でネクローシスの関与が明らかになると共に、ある種のネクローシスでは何らかの制御機構の存在が推定されるようになってきている。 このような背景で、我々はエトポシドなどの抗ガン剤により誘導される「アポトーシス」は抑制せず、酸化的ストレスにより誘導される「ネクローシス」を抑制するというユニークな低分子化合物IM-54をはじめとするIM(Indolylmaleimide)誘導体の開発に成功している。そこで、本研究ではこの新規細胞死抑制剤をプローブとして用いることで、いまだ未解明の細胞死「ネクローシス」を分子レベルで解明することを目標とする。 今年度はIM誘導体のプローブ化を目指し、活性を損なうことなく各種官能基(蛍光団、ビオチンなど)を導入するための構造変換方法を検討した。その結果、蛍光団を導入したIM誘導体、IM誘導体を固定化したアガロースビーズ、ビオチンを導入したIM誘導体などの合成に成功した。今後はこれらを用いてターゲット分子の同定および作用機序の解明を目指す予定である。
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