研究概要 |
絶滅危惧植物種の効率的かつ普及可能な環境保全技術の開発をおこなうパイロットモデルとして絶滅が心配されているハヤチネウスユキソウの簡易培養系を作成し,現在までに申請者が確立したガラス化法を組み合わせ,絶滅危惧植物種への保存応用できるか解析した.その結果,ガラス化現象を基礎としたガラス化処理各ステップ,最適処理時間等の条件を決定し超低温保存法の確立に成功した. 各処理の至適条件と植物組織細胞の生存性,ならびに電子顕微鏡観察結果をあわせて考察すると,絶滅危惧種をはじめとした希少種などの植物を扱う場合,茎頂分裂組織を取り巻く形態を理解したうえでガラス化処理時間を検討する必要がある.すなわち,組織細胞に対する脱水あるいは浸透処理効果の不均一さが保存の成功を困難にしている要因の一つとしてあげられた.この知見は,他の植物種にも同様のことが広くいえると推察される.溶液の浸透性は脱気や界面活性剤あるいは茎頂の摘出方法を工夫することでクリアできるものと思われる. ガラス化法によって最適条件で処理した培養茎頂の原形質膜超微細構造変化を調べるため,超低温処理した茎頂の原形質膜超微細構造をフリーズ・フラクチャー・レプリカ法と透過型電子顕微鏡を組み合わせて原形質膜破断面を観察した.その結果,脱水に伴う膜同士の異常接近(膜融合などによって膜が本来的に持っている半透膜としての機能が失われ不可逆的な傷害)によって引き起こされる構造変化はみられず,膜タンパク質粒子(IMPs ; intramembrane particles)が均一に散在する構造が観察された.以上の成果から,ガラス化液による脱水・浸透作用が均一におこなわれること,細胞にとって致死的な氷の形成(細胞内凍結)を抑えること,段階的に最適処理することで植物細胞の脱水耐性を高め,ガラス化液による生体膜構造変化の発生を抑制することが重要であることが考えられる.
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