今年度は、インドネシア東部およびマレーシア半島部において研究打合せ、フィールド調査ならびに資料収集を実施した。インドネシアでは、スラウェシ島周辺に居住するサマ人の開発過程に関する調査をおこない、主に次のことを明らかにした。 〔経済活動〕北スラウェシ州では、1990年代以降、外洋でのマグロ漁に従事するサマ人が急増した。その背景としては、1)日本等におけるマグロ需要が急増したこと、2)スハルト期の漁業開発政策の過程でマグロ漁業が振興されたこと、3)「国立海洋公園」政策により、サンゴ礁域が自然保護区とされたことの三つがあげられる。マグロ漁の広まりは、サマ人のあいだに富裕層を生み出した。他方、漁民が資本提供者や仲買業者に社会経済的従属する傾向が以前より強まっていることも確認された。 〔宗教実践〕ゴロンタロ州では、1980年代末以降の「孤立民族」政策により陸地定住化プログラムが施行された。この過程でイスラーム施設の建設、イスラーム教員の派遣が進められ、サマ人の「イスラーム化」が進行した。 〔民族間関係〕社会経済面においてスラウェシ系サマ人は、ブギス人(南スラウェシの主要民族)に対し従属的であることが多い。しかし北スラウェシ州やゴロンタロ州では、かれらのブギス人に対する従属性はもともと明白ではなく、1990年代以降の開発過程でそうした従属性はさらに希薄化した。 マレーシアでは、スランゴル州等における海サマ人都市就労者を対象とする調査をおこない、都市就労者が1)ホワイト・カラー職従事者、2)工場労働者、3)都市行商の三つのカテゴリに分化していること、こうした分化は、学歴の高低、「新経済政策」期の開発プログラムの影響の有無、国籍の地位の違いによって生じていることを明らかにした。 以上の調査結果の一部は、Nagatsu[2006]で公表したほか、マレーシア国民大学における国際セミナー(2007年3月)等で報告した。
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