昨年度に引き続き、メキシコにおける民主化過程が治安状況の変化にどのような影響を与えてきたかを明らかにするという観点から現地調査を行った。本年度は、従来の事例に加え、報道などで州の行政効率が高いといわれているアグアスカリエンテス州と、麻薬問題及び不法移民問題が深刻化しているバハ・カリフォルニア州の事例の検討を行うために、両州において治安関連法規と治安対策に関する資料を収集した。これにより、1980年以降の治安対策がどのように行われてきたのかを概観する予定である。従来の事例については、ヌエボ・レオン州における資料収集を継続するとともに、州における政治状況や治安状況の変遷の詳細について州政府幹部らへの聞き取り調査を実施した。 また、昨年度に収集した資料及び聞き取り調査の結果の整理と分析も進め、論文と学会報告の形で発表した。メキシコ市(連邦特別区)の事例に関しては、「民主化したメキシコ市政府の応答性-『民主主義の質を考察する-」と題する論文として発表した。また、連邦政府の政策などについては、メキシコ・グアダラハラ大学で開催されたラテンアメリカ社会学会第26回大会において"Crisis de la seguridad publica y la calidad de lademocracia en Mexico"(メキシコにおける治安の危機と民主主義の質)とのタイトルで報告を行った。現時点までの成果からは、メキシコにおいては政治的民主化達成後も治安状況の改善は達成されず、法の支配などの側面について「民主主義の質」が向上しているとはいえない状況が浮かび上がってきた。次年度には、追加の現地調査を行いながらこれまでの調査により得られた資料などを精査し、各事例の比較検討を通して民主主義の実質的側面の改善を妨げる要因とそのメカニズムに関する考察を行う予定である。
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