1.文献研究については、マレーシアにおけるキリスト教の歴史的展開に関する文献や資料を読み進め、特に、イギリス植民地時代以降のキリスト教宣教の歴史に焦点を絞って研究した。その結果、イスラーム教徒であるマレー人に対するキリスト教宣教はあまり行なわれず、中国系住民や先住民オラン・アスリを対象にして、キリスト教宣教が活発に行なわれていたことが確認できた。さらに、当時のイギリス植民地政府や人類学者は、原住民保護の観点から、必ずしもオラン・アスリに対するキリスト教宣教に賛成ではなかったことも確認できた。マレー半島北部のスマイというグループに対するメソデイスト派による宣教史については多くの文献資料が残されており、資料も一通り入手できたので、今後は、文献研究の対象をこのグループに絞って研究を進めていくことにしたい。 2.現地調査は、サラワク州については、今年度も実現できなかったが、その代わり、植民地都市であったペナンから首都クアラ・ルンプールまでマレー半島北部を車で縦断して、キリスト教やイスラーム教に関する歴史的建造物や博物館などを視察した。キャメロン高原では、キリスト教徒になっているスマイの人びとの集落などを見て回った。フィールド調査の拠点としている南部のヌグリ・スンビラン州のオラン・アスリ集落では、昨年よりもキリスト教徒がやや増加していることを確認した。また、いくつかのオラン・アスリ集落では、キリスト教の「教会」がマレーシア政府により違法建築物として破壊されているという報道があったので、来年度は、可能ならば、そうした地域での現地調査も実施してみたい。
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