本研究は、近年の母子世帯を対象とした社会政策の転換、すなわち、所得保障制度(主として児童扶養手当)の縮小と就労支援策の拡充が母子世帯の生活や労働に与える影響を検討した。母子世帯に関する行政資料、政府統計、各自治体が実施した実態調査、母子世帯の当事者団体が実施した実態調査、および、母子世帯支援を行っている自治体の担当者、当事者団体へのインタビュー調査をもとに分析を行った。 2003年から実施されている就業支援策の実績を検討した結果、就業支援策の利用者や就職率は年々微増傾向にあるものの、母子世帯総数からすると、制度利用者、就職率等の規模は小さく、母子世帯全体の労働環境や勤労収入を底上げする支援とはなっていなかった。ただし、いくつかの自治体に対するインタビュー調査から就業支援策の実際を検討すると、就業支援策自体は母子世帯の生活や労働環境の向上に関して必ずしも無意味な政策的支援であるとはいえない。自治体によっては、母子世帯の母の就業へのきめ細かい支援が行われており、一定程度の実績をあげている。こうした取り組みが継続して実施され、かつ、より多くの母子世帯の母が利用することで、就業支援策の効果は今後大きくなる可能性はある。 また、児童扶養手当の支給状況に関するデータと就労支援策をあわせて検討すると、就労支援策の拡充が図られた時期に、児童扶養手当の全額支給停止者割合が減少している等の結果から、就業支援策が児童扶養手当の抑制に対して、現段階では有効性をもっていない可能性があることが指摘できる。
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