本研究は、ゲノム二重らせんDNAおよびナノ粒子のコンプレックス形成による人工クロマチン(染色体)モデルとしての新しい生体模倣ナノ構造システムを創製し、人工クロマチン構造制御のメカニズムを理解することを目的とするものである。プロジェクトの最終年度では、ヒストンモデルとしてのナノ粒子の表面電荷と表面修飾剤のキラリティーの影響について下記のように研究した。 (1) 人工クロマチン構造の組織化の際、ナノ粒子の表面電荷の影響を徹底的に調べた。そのため、10-100nmサイズのナノ粒子の修飾条件を変えて、ナノ粒子サイズごとに表面電荷が異なる粒子群を合成した。DNA・粒子相互作用を蛍光顕微鏡および電子顕微鏡においてリアルタイム観察し、表面電荷影響は次のようになった。表面電荷の低いナノ粒子はDNAとほとんど強い結合しないが、高濃度の条件下はDNAがナノ粒子に折り畳まれる。従って、ナノ粒子の正味電荷が負の場合でも、ナノ粒子の表面上のDNAと結合する機能基がある場合、ナノ粒子がDNAに対して折り畳む働きをすることが明らかになった。より多くカチオン機能基を有するナノ粒子はDNAと結合し、高効率的にDNAを折り畳む。逆には、もっと高い陽電荷のナノ粒子のDNA凝縮効率が悪くなる。従って、DNA凝縮転移においては、ナノ粒子の最適表面電荷密度があることを明らかにした。 (2) 生体内でのDNAを折り畳むヒストンはキラルタンパク質であるが、そのキラリティーの役割はまだはっきり分かっていない。本研究では、キラリティーの役割を明らかにするため、人工クロマチンモデルを用いて検討した。粒子表面をキラルポリリシン(ポリ-L-リシンまたはポリ-Dリシン)で修飾し、粒子表面に吸着させたポリリシンのキラリティーのみで異なる100nmおよび10nmナノ粒子を合成した。キラルナノ粒子のDNA凝縮効率を調べ、いずれの場合においても、DNA凝縮効率に対してキラリティーの影響が与えられていない。従って、実際のヌクレオソームの場合でも、DNA折り畳み過程へのキラリティー寄与率が低いと考えられる。
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