本年度は、自閉症に関して国立成育医療センターでのフィールドワークを中心に研究した。週一度のフィールドワークのほかに、数人の医師・臨床心理士との研究会、および宮尾益知先生(発達心理科医長)と松本美江子先生、鈴木繭子先生(臨床心理士)との質的研究のプロジェクトを遂行している。 前者の研究会では事例を中心とした検討を行うとともに、村上自身も自分の研究成果を発表した。後者は自閉症児の自我発達に重点を置いた面接データの収集・解析を行っている。現在データを収集・整理している段階であり、本格的な分析とその成果の発表については来年度以降の課題となる。 成果発表については、自閉症に関する論文を四本、現象学に関する論文を一本発表するとともに、現象学的な情動性に関する研究として、特にレヴィナスに関する学会発表を中心に、海外で四本、国内で二本行った。また日本哲学会から若手研究者奨励賞をいただいた。 内容に関しては、まず自閉症児における視線を中心とした対人関係の構造の特異性・困難についての分析、つぎに想像力の使用と遊びの構造化の分析、そして時間意識の特異性の分析を行い、論文あるいは口頭発表の形で発表した。また、自我意識や死生観に関しては共同研究を行っているので、一九年度以降発表してゆく予定である。 哲学においては、フランスの現象学者・哲学者であるレヴィナスの生誕百周年に当たったこともあり、レヴィナスに関して、情動性の構造分析、安心感を形成する対人関係の構造分析、あるいは病的な無意味の経験の分析という視点から口頭発表を行った。これらについては一九年度以降、論文として出版される予定である。
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