「社会」という概念を研究しようとする本プロジェクトも最終年度を迎え、いくつかの重要な成果参出すことができた。国際日本文化研究センターの「東アジアにおける知的再編成」の研究班(日文研教授鈴木貞美)で報告した内容が、孫江主編『新史学-概念・文本・方法』に掲載された。本書は中国において近年もっとも注目されている研究雑誌の一つであり、学問的な方法論についても大きな反響があったと聞いている。自らの研究成果の国際的な発信という意味で有意義であった。また復旦大学での国際シンポジウムにおいて「功利」について研究発表を行った。「功利」という概念がどのように近代にいたって再認識されたのか、また日本での用法がいかに中国に輸入されたのかなどについて検討を加えた。また公表された論文に加え、いくつかの研究発表を行った。例えば、「文明」という概念が近代中国においてどのように受容、生成されたのか。 「社会」という概念参解明しようとすれば、思想史研究者の立場からは、いわゆる概念史的な方法が有効である。と同時に、「社会」と近接する諸概念との関連に留意する必要がある。「社会」だけに着目しても問題の本質は見えてこないのである。その意味で、「功利」「文明」あるいは別稿で検討を加えた「社会契約」などの諸概念について研究参するしとができたのは有意義であったと思っている。また近年と日本のみならず、中国、韓国、ドイツ、アメリカなど各所で概念史研究にかかわる研究班が組織されている。私もそのいくつかに加わっているので、そこでの成果を吸収しつつ、新しい展開参模索礼ていきたい。
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