本年度は宗教と戦争に関する研究の一環として、一つはアメリカ陸軍における従軍チャプレン制度の分析、もう一つは日本軍でいわゆる特攻隊員として戦死したクリスチャンの学徒兵、林市造氏の手記に関する考察をおこなった。 アメリカ軍は、陸海空海兵の四軍から成るが、それぞれが特殊兵科のひとつとして、専属の聖職者を統括する「チャプレン科」を有している。ここでは最も歴史の古い陸軍に焦点をあて、「野戦教範」や「陸軍規則」などの内部資料や陸軍チャプレン学校の生徒向けハンドブックや公式HPの情報などを手がかりに、チャプレンたちが具体的にどのような仕事をおこない、戦場ではどのような経験をしているのか、また自らの任務の意味をどのように捉えているのかなどについて分析をおこなった。 二点目の特攻隊員の手記であるが、この林市造氏は京都大学経済学部に在学中にいわゆる学徒動員により海軍に入隊した人物である。彼は入隊後戦闘機パイロットとなるが、戦況は悪化の一途をたどり、やがて神風特別攻撃隊に編入される。彼は幼い頃に父を亡くし、敬慶なキリスト教徒の母に育てられた。大学時代は自らの信仰を批判的に見る傾向もあったが、特攻という「定められた死」を前にして、日記や母宛の手紙には、信仰を軸に生と死に対する真摯な思いがつづられていた。戦場にいる彼にとって、キリスト教信仰は生き方と死に方を考える糸口であると同時に、愛する母親との最も確実な接点なのでもあった。
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