本研究の全体構想は、最も重要な古典イスラーム思想家の一人であり、現代のイスラーム教徒にも大きな影響を与えているガザーリー(1111年没)の思想、とくにセクシュアリティー(性行為、生殖、婚姻、女性、ジェンダー、性愛観、生命倫理などのさまざまな性に関する問題)の議論を分析し、現代のムスリムによる性の議論、性に対する考え方と比較することにより、古典思想の現代における影響、意義を考察するというものである。 今年度は、古典文献の分析を中心に行い、現代との比較にも着手した。まずガザーリーを中心に、古典イスラームの夫婦間のセクシュアリティーとは異なる領域、つまり、夫の立場からみた妻と子供に関わる日常生活の議論を明らかにした。具体的には、ガザーリーの代表作『宗教諸学の再興』の「婚姻作法の書」における妻と子供に関する議論を分析することにより、ガザーリーの家族観を文献学的に導き出した。 以上の研究成果については、「ガザーリーの「婚姻作法の書」にみられる妻と子供」にまとめた。さらに次の段階として、現代の代表的なウラマーであるカラダーウィー(1926年〜)の代表作『イスラームにおける合法と非合法』の第三章「婚姻と家庭生活に関する合法と非合法」を分析し、特に女性問題と中絶・避妊といった生命倫理に関して、ガザーリーの婚姻論と比較し、「古典時代と現代におけるイスラームの婚姻論比較研究-ガザーリーとカラダーウィー」を学術雑誌に投稿、掲載決定した。 研究成果の一部については、早稲田大学オープン教育センターで口頭発表した。さらに、イスラームの生命倫理に関する事典項目(「イスラム教の死生観」「イスラム教の他界観」『応用倫理学事典』丸善)および「読書案内-イスラーム思想史」(「歴史と地理』山川出版社)を発表した。またドイツとイギリスに出張し、文献等を収集・閲覧した。
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