本年度は、ユーラシア主義の「原型」ともえいえるN.S.トゥルベツコイとP.N.サウィツキーの思想の全体像と、その活動の実態を明らかにするために、主に原資料の収集に力を注いだ。8月には、プラハのチェコ共和国国立図書館スラヴ図書館で2週間、2月から3月にかけては、モスクワのロシア連邦国立文書館(GARF)で3週間の資料調査を行った。これまでユーラシア主義に関する資料の大半は、モスクワのGARFにあるといわれてきたが、今回の調査の過程で、プラハのスラヴ図書館には、サヴィツキーの遺族が寄贈した遺稿のコレクションが所蔵されていることがわかった。2回にわたる資料調査の結果、これまでの刊行物を中心とした資料収集では手に入れることができなかったら、彼ら二人の書いた論文、未刊行の手稿、往復書簡などを多数入手することができた。判読が困難な手稿と書簡数点については、ロシア語話者の協力を得てこれをタイプし直した。この作業は現在も進行中である。 判読が困難な手稿と書簡数点については、ロシア語話者の協力を得てこれをタイプし直した。この作業は現在も進行中である。 目下のところは、現地で収集してきた資料を読み込むことに集中しているが、同時並行的に、昨年度までの研究の中で残していた課題、すなわち、サヴィツキーの国家体制論とポリェヴィキ観の変遷をおおまかに整理し、既に発表済みの論文に大幅な加筆修正を加えるかたちで論文にした。これには今後に筆を加え、現在執筆中である博士論文の中の第3部にあてる予定である。また、この論文の内容を、18年11月25日にロシア思想史研究会の例会(於早稲田大学)で報告した。 先行研究として必要なロシア思想史に関する文献資料は、本年度でおおかた収集することができたと考えられる。学説史の整理は現在進めているところではあるが、概ねスラヴ主義の流れを汲むものとして説明されるユーラシア主義が、「西欧主義対フラヴ主義」の構図の中で、どこに位置づけられ、評価されているかという点について、論者の立場によって3つの学説があることが確認できた。
|