2年目にして最終年度であった本年度は、昨年度に集中的に収集した史料の読み込みを行い、3点の成果を挙げるに至った。 まず、N.トメベツコイP.サヴィツキーが相互に挑戦と反応を繰り返しながら、共鳴と反発のうちにユーラシア主義の中核的概念を形成していく様を描き出すことができた。この一部は、9月にロシア思想史研究会夏季大会で報告し、ロシア思想史を専門とする研究者と議論を交わした。そこで得た知見と反省を反映させ、これを博士論文の中の一つの章にまとめた。ロシア国内外を問わず、これまで発表されたユーラシア主義の研究には、思想家たちの相互関係という観点からその思想形成を話明したものは存在しなかった。この点において、本研究成果はユニークなものであるといえる。 次に、ユーラシア主義をめぐる同時代的反響を、ロシア人亡命者、ソ連国内、ウクライナ人亡命者、イギリス、日本とう各点から検討し、『総合研究』(津田塾大学国際関係研究所)第5号に発表した。同時に、これは博士論文の最終章の一部分を形成することとなる。ユーラシア主義が引き起こした様々な反応は、その思想の振れ幅の広さを示す。「副産物」として、日本におけるアジア主義との接点も明らかになり、この部分は今後の研究プロジェクトにつなげていく予定である。 最後に、これまでの研究成果を含め、最終的に博士論文としてまとめることができた。この論文は、ユーラシア主義の起源を、これまで用いられることのなかった未刊行史料を駆使して歴史的観点から明らかにし、1920年代の文脈においてそれがいかなる性格を有していたか、その歴史的意義は何かを論じたものであり、4月末日に津田塾大学に提出する予定である。
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