本研究代表者は、歌舞伎役割番付を基礎資料とした江戸時代の上方歌舞伎における演奏者の個人的動向と組織構造の研究である。本研究課題では、(1) : 基礎資料となる歌舞伎役割番付調査の促進、(2) : 近世上方歌舞伎の興行範囲ならびに影響範囲の解明、(3) : (2)の地域における演奏者の動向に関する研究を目標とした。 20年度は四国地域を対象とした。方法としては、はじめに大阪府立中之島図書館、阪急学園池田文庫、早稲田大学演劇博物館、国立国会図書館、実践女子大学付属図書館の各図書館に所蔵されている、当該地域の歌舞伎役割番付資料の所蔵状況調査を行った。次に、当該地域の県立・市立図書館、県立・市立博物館、県立・市立の資料館、私立の資料館等に資料所蔵の有無、県内あるいは市内、近郊の他の所蔵先の情報確認を行い、所蔵が確認できた歌舞伎役割番付については調査を行った。また収集した複写資料については情報をデータベース化するという作業を行った。 歌舞伎番付を大量に保持している上記6図書館・文庫における調査では、当該地域の資料に関しても一定数の所蔵が確認されたが、量的にはかなり少数であった。第二に、当該地域の公立図書館・博物館・資料館等の所蔵状況は、讃岐周辺を除けばかなり劣悪であり、現地での番付残存は金比羅関係を除けばほぼ皆無に近い状況であった。この状況は一昨年度、昨年度該当地域も同様であった。結果としては、大坂・京都を中心とした上方、及び名古屋、伊勢を含めた地域と、その他の地域とは、資料上比較にならないこと、番付のみから演奏者の動向を詳細に解明することは不可能であることが判明した。これが時間経過と資料に対する意識不足による資料の消失によるものなのか、本来上方・名古屋とその他の地域とでは比較できないほど番付発行が行われなかったためなのか、江戸歌舞伎文化圏では状況は異なるのか等について、今後とも引き続き調査研究を行っていきたい。
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