本研究は、19世紀アメリカの代表的な女性誌である『ゴーディズ・レディズ・ブック』における言説とイメージの分析を通じて、パリを中心とする流行のスタイルが、東部アメリカでいかに受容されたのか、すなわちアングロサクソン・プロテスタントの思想文化を融和させながら、ヴィクトリア朝時代アメリカの身体様式や女性像を表象する「ファッション」としていかに変容・成立させられてゆくのか、そのプロセスを明らかにするものである。本年度はおよそ60年あまりにわたる同誌の出版期間のなかでもとりわけ『ゴーディズ・レディズ・ブック』の前身となる雑誌『レディズ・ブック』(1830年〜1836年)時代と、『ゴーディズ・レディズ・ブック』創刊から約十年(1837年〜1847年)の二つの時代に焦点を当てて一時資料の収集、調査、考察を行った。その結果、前者の『レディズ・ブック」時代においては、パリの流行スタイルとの差別化をはかるべく提示されたモデル「フィラデルフィア・ファッション」のもとに「良き女性」としての理想像が視覚化・言説化されるプロセスが明らかとなった。その成果は「フィラデルフィア・ファッションー『レディズ・ブック』における良き女性の表象」としてまとめられた。また後者の初期十年の『ゴーディズ・レディズ・ブック』においては、ファッション・プレートの雑誌掲載をめぐる議論の展開と、ファッション・プレート掲載に対する『ゴーディズ・レディズ・ブック』の正当化の言説を辿ることによって、「ファッション」というテーマが女性誌のなかに位置づけられ、ファッションと女性性とが結びつけられてゆく過程が明らかとなった。以上の研究は、これまで看過されてきた19世紀前半のアメリカ・ファッションを主題として取り上げたものであり、その成果は服飾史のみならず、アメリカ文化研究、メディア研究、表象文化論研究にも活用されると期待される。
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