本年度は、以下に記載する二つの研究の柱に即しておこなった。マクロな視点からは、2001年10月〜11月、2002年5月以来のアイルランドおよびイギリスおける現地調査(科学研究費・特別研究員奨励費による)の継続・発展、ミクロな視点からは、前年度よりの「崇高美学」一般の理論的な探求・敷衍、ということになる。 【1.現地フィールドワーク調査】 本年度全体を通して、バーク渡英前の生活地アイルランド(ダブリン、コーク州のマロー近郊およびブラックウォーター渓谷一帯)での、特に17世紀末〜18世紀の歴史・教育・景観などに関する研究資料を渉猟した(美学会、イギリス哲学会、アイルランド協会などの関連諸学会会員との情報交換、また、現地の美術館・博物館・郷土史家・歴史協会などとの情報交換も含む)。とくにフィールドわーク調査としては、2008年3月12日〜21日、2001年秋に訪れたバークの精神的故地たるブラックウォーター渓谷一帯を、当地の歴史協会会員で郷土史家のダン・ドウーラン、ミホール・マグネルの両氏とともに、前回調査の未確認事項の確認作業も含め、父方バークー族および母方ネーグルー族の城館・墓所など網羅的に調べた。この折に、マロー近郊のナノ・ネーグル(バークの従姉の宗教家をセンター、コーク市のクロウフォード美術館(バークがパトロンした画家バリーのシンポ開催)、首都ダブリンのトリニティ・カレッジ、国立歴史博物館、国立図書館などにも立ち寄り、関連資料・映像の収集をおこなった。 【2.「崇高の美学」一般の理論的探求】 本年度を通じて「崇高美学」関連の書籍・映像などを収集・整理してきた。とくに、18世紀イギリス哲学・思想の関連では、『イギリス哲学・思想事典』(研究社、2008年11月刊行)の項目に、「崇高」「ピクチュアレスク」「ホガース」「レノルズ」など、「事項」と「人名」合せて6項目を執筆し公刊している。また本科研の研究成果公開の一端として、前年度より、「崇高」の西洋・東洋の語源史、大地(とくに、岩石や山岳)の文化史、バークおよびカントの哲学・思想史、ならびに、現代の前衛芸術論、歴史表象論、さらには原爆のヒロシマ論などのテーマのもと、広島大学の講義・演習を進めている。こうした研究成果は、『崇高の美学(仮題)』というタイトルのもと、本研究の一端(中間報告)として、2008年度前半期には、単行本(単著)として出版・公開できるよう現在鋭意準備を進めている。
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