本研究は、主要な美的カテゴリーたる「崇高」概念をめぐっておこなわれた。その成果として、(1)まず、その導出の具体的な諸契機を、近代崇高論者の祖たるアイルランド人エドマンド・バークが生きた18世紀アイルランド(およびイギリス)の文化風土に求めた。これによって「崇高」が本来はらんでいた実践的な批判精神にまで肉迫し得たと思う。(2)次に、こうしたバーク以来の歴史的な「崇高」概念のうちに見いだされた「感性」的な思考法を現代へと応用することで、我々が現在かかえる喫緊の課題(人間存在の病理)を鋭く抉りだす可能性があることも示し得たと思う。結果として、「崇高の美学」こそ、混迷する高度に発達した現代社会の危機を乗り越えるのに重要な指針を与えるだろうということも分かってきた。
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