・武蔵野美術大学に所蔵されている雑誌『工芸ニュース』を創刊号より戦後まで調査し、輸出デザインに関する論考を抽出した。これは、次年度以降も基本とする重要な史料である。また、関連する図版・写真の撮影を行った。これを反映させて、論文「今井和子と自由学園工芸研究所にみるモグュズム期日本の工芸産業」を日本デザイン学会に投稿し、掲載が決定している(掲載は来年度となる)。本稿では、自由学園の卒業生で工芸デザイナーである一人の女性に焦点を当てた。1930年代には彼女はョーロッパヘ派遣され、西洋のヴィジュアル・カルチャーの新たな側面を学んで帰ってきた後、同校の工芸研究所で活躍した。彼女はここで教鞭をとり、海外の国際展覧会に作品を出品している。本稿では、ョーロッパのモダュズム的デザイン教育を受けた彼女の経験を、両大戦間期の日本における工芸、フェミニズム、そしてナショナリズムという三方向と関連させて論じ、そこから、国家産業としての工芸と国家が西洋にあらためて新たなジャポェスム、すなわち「モグン・ジャポニスム」とでもよべるものを引き起こそうとしていた戦略を明らかにした。 ・ロンドンに出張し、金唐革紙が用いられているロイヤル・インスティテューション、パレス・シアターの現地調査を行ったことにより、これまで知られていなかった海外での受容例が明らかになった。また、研究成果の一部の発表として5月に金唐革紙の展覧会がロンドンの大和日英基金の主催で行われることになり、その打ち合わせを行った。さらに、日本工芸の輸入に大きく関わっていたリバティ商会の専門家Sonia Ashmore氏との情報交換を行った。
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