研究概要 |
本調査研究は,芸術的・文化的産物が産業社会における貴重な資本/守るべき国家遺産とみなされていく近代の流れのなかで制作された挿絵入り美術出版物の背景と意義,国際的な往来の概要について,近代フランスと日本を中心に明らかにするものである。本年度は昨年度の調査を引き継ぎつつ,(1)パリの国立東洋言語文明研究所(INALCO)と国立公文書館において,フランスの文化芸術行政との関わりのなかで,第三共和制期のフランスから明治日本へ送られてきた挿絵入り美術出版物をめぐる行政文書の調査研究を進めた。(2)パリの国立図書館において,19世紀フランスの各種新聞雑誌や万国博覧会報告書等を渉猟し,フランス政府の対外文化政策や産業応用芸術振興策に関連する言説や,挿絵入り美術出版物全般に関する言説を収集・考察した。(3)パリの装飾芸術美術館図書室,リモージュのアドリアン・デュブッシェ美術館においてこの分野における主要作品のデジタル画像の収集を進め,イメージをノート型PCに取り込んでデータベース化を試みた。(4)国内での補完的な資料調査も進めた。昨年度の調査研究の成果をふまえ,未公刊の一次資料の掘り起こしを主とするこれらの調査を通じて,(1)応用芸術に関連する挿絵入り美術出版物の役割と意義に関する同時代の評価,(2)挿絵入り美術出版物の贈与を通じたフランスの対外文化政策,特に日本との関係,(3)芸術的伝統が社会的共有財産として評価・活用される近代の過程において,挿絵入り美術出版物という表象手段が果たした役割について,分析と考察を深めることができた。
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