18年度は、平安時代の経絵様式の展開過程の中でも定型成立以降、つまり平安時代後期につくられた作品の調査を中心に行った。対象作品は下記の(1)〜(4)である。作品調査に際しては、表紙・見返絵・本文書体の様式的検討、紙や金銀泥の材質の確認、法量の計測を行い、基礎データを収集した。写真撮影は可能な限り行った。 (1)滋賀・百済寺所蔵「紺紙金字法華経并開結(10巻)」12世紀半ば (2)奈良・唐招提寺所蔵「紺紙金字法華経并開結(10巻)」12世紀半ば (3)京都・長福寺所蔵「紺紙金字金光明経(4巻)」久安4年(1145)奥書 (4)長崎・普門寺所蔵「紺紙金字法華経并開結(8巻)」12世紀後半 また、平安時代の経絵が東アジアの経絵の中でいかに位置づけられるかを把握するために、比較研究の基礎作業として高麗時代につくられた作品の調査を行った。対象作品は下記の(5)〜(8)である。調査方法は平安時代の作品に準じた。高麗写経については、藤田励夫氏(九州国立博物館・保存修復室長)と共同で行った。 (5)京都・上徳寺所蔵「紺紙銀字法華経(6帖)」高麗時代 (6)同所蔵「紺紙金字法華経(5帖)]高麗時代 (7)京都・妙顕寺所蔵「紺紙金字法華経(7帖)」高麗時代 (8)ソウル・東国大学所蔵「紺紙銀泥菩薩善戒経巻第八(1巻)」至元17年(1280)奥書 18年度の調査結果から判明したことは現在までのところ次の通りである。 平安時代の作品のうち(1)(2)(3)については1紙の幅、界高、界幅はそれぞれの作品内で均一であることが確認できた。本文書体については、(3)は巻頭から巻末まで一筆、他は複数の手になる。表紙絵・見返絵については表現上の画一性が高い。また、赤外線撮影によって、(1)の本紙の表裏の端の所々に墨書の花押のようなものが記されていることが判明した。紙の制作に関わるものと思われ、今後、制作環境を研究するうえでの材料としたい。
|