日本を中心とする東アジアの紺紙金字経典の実地調査を行い、同一作者集団により制作されたと判断できる作品群の確認、赤外線写真撮影による紙面の墨書・墨印の確認など、経典の制作環境解明の材料を得た。また東アジア作例との比較から平安時代の経典見返絵の様式的特徴を明確にした。すでに文献的考察により明らかにしていた「経師」らによる制作活動の状況を踏まえ、結論として、平安時代の経絵は、僧侶たちが作善の意識をもちつつ組織的に制作するなかで様式確立にいたり、鎌倉時代初めの経典説話絵巻制作の基盤を作った、一定の絵画的史領分を持つジャンルであると位置づけ得た。
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