最終年度となる本年は研究の総括として「崇高なる山水-中国・朝鮮、李郭系山水画の系譜-」展(大和文華館、平成20年10月11日〜11月16日)が開催されたことが挙げられる。本展はそれまで「東山御物」や南宋・禅林の作品に偏っていた日本の中国絵画理解に対し、中国絵画の本来の主流であった李成・郭熙系統の画作を紹介する国内初の試みであった。同展カタログ論文においては北宋の宮廷画家・郭熙による大画面山水の意義について、北宋が建国以来構築してきた三館秘閣を中心とする宮廷コレクションにおける文化的総合と再生産との関連を指摘した。このような北宋の新しい国家を代表した郭熙の山水は、高麗にも下賜されて新たな意味を獲得していく。また郭熙山水は李郭派として北宋を代表する画系として伝承され、千年以上の命脈を保っていくことを展観、及び同展カタログ解説において示すことが出来た。これらは北宋の三館秘閣を中心とした文化活動の所産と言えよう。 また高麗宮廷の活動に対しても考察を加え、特に11-12世紀初頭の宮廷コレクション活動に北宋宮廷の直摸とも言えるほどの密接な関連を認めることが出来た。これらは同時代の日本宮廷と比較するとき、その性格が特筆されると言え、今後東アジア美術史、特に美術交流史を考察する上で基礎的な知見を得ることが出来た。それらの成果の一部は、国立台湾大学芸術史研究所主催でおこなわれた研究会上(2008年12月10日)において「北宋繪晝與日本早期繪晝」として発表した。 その他、今年度は2月にアメリカのフリアギャラリー、メトロポリタン美術館、プリンストン大学美術館、ネルソン・アトキンス美術館、クリーブランド美術館の調査を行い、北宋絵画や、李郭系山水画について新たな知見を得ることができた。これらの成果は平成21年度以降の論文のなかで発表する予定である。今後これらの成果をふまえ、北宋文化全体の古典性の形成とその影響について考察を深めていきたい。
|