前年に引き続き国内外の図書館・文学館・美術館において前衛文学・芸術と記録文学についての資料収集を行い、当時の関係者へのインタビューも行った。成果発表の年として、安部公房、花田清輝、吉本隆明、石川淳、千田是也、大西巨人ら戦後期日本の政治的・芸術的前衛について、論文やシンポジウムで発表した。また、1950年代の記録の運動において重要な位置を占める岩波映画についても研究の準備を進めており、シンポジウムでその可能性について発表した。 「安部公房「砂の女」-性的な戦略について-」では、先に『運動体・安部公房』において読解した『砂の女』について、「近代文学に描かれた性」という特集テーマに即した読み直しを行った。 「世代論・座談会論・サークル論-花田清輝・吉本隆明論争-」では、花田清輝と吉本隆明の論争を、三つの角度から分析した。「戦中派」と「戦後派」のねじれた世代関係、座談会の虚構性をめぐる問題、サークル論についての本質的な近さといった観点から、両者の論点を読み直した。 『走り続ける作家大西巨人』収録の「大西巨人と『現代芸術』」においては、<記録芸術の会>機関誌の『現代芸術』の周辺をたどることで、大西巨人の意外な側面を明らかにした。 また、「石川淳と演劇-「千田是也演出のために」の射程-」は2009年中に公刊される予定だが、石川淳のただ二つの戯曲「おまへの敵はおまへだ」と「一目見て憎め」に着目し、千田是也との関係の中でそれらの戯曲が生まれた経緯と、1960年代演劇の文脈におけるその受容について考察したものである。
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