文化年間(1804〜1818)後半の上方読本の板完を調査した結果、文化9年(1812)前後の上方出来の読本において、江戸と上方の板元同士の結びつきが少しずつ明らかになった(今年度、調査対象とした作品は、『青砥藤綱摸稜案』、『在原草紙』、『糸桜春蝶奇縁』、『今昔庚申譚』、『逢州執着譚』、『金屋金五郎全伝』、『金鱗化粧桜』、『桜木物語』、『浄瑠璃姫物語』、『清正真伝記初篇』、『太万廼佐志玖之』、『天縁奇遇』、『雙三弦』、『北越奇談』、『松王物語』、『青葉笛』、『絵本いろは国字』、『小栗外伝』、『雙蝶記』、『忠孝貞婦伝』、『初瀬物語』、『螢狩宇治奇聞』、『綟手摺昔木偶』、『和漢乃染分』、『東鑑操物語』である)。さらに作品の成立過程にも特色が認められる可能性を見出した。具体的には文化9年刊『今昔庚申諄』(栗杖亭鬼卵作・浅山蘆国画)と同年刊『桜木物語』(月花亭東漁作・石田玉山画)において、刊行前に前者の作者・鬼卵が後者の作品を閲覧し、問題点を指摘したことが記されており、作品内容的にも重なる部分が多い。この点を精査することによって、上方の作者間の交流に留まらず、江戸風(特に馬琴の)読本の作法をいかに自らのものにしていったか/できなかったかという差を追求した。また、江戸在住の作者の作品に上方の画師が絵を描いているパターンや、文化5年以降に刊行が遅延していた作品が、文化9年前後に立て続けに出版されているという事象にも気がつき、これらの問題は来年度の課題としてさらなる調査を続けていきたい。
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