研究概要 |
19年度の調査・研究としては,文化5年〜9年の間に江戸もしくは大坂において刊行された読本についてのデータをまとめた。データ細目としては,作者・画工(絵師)・出版者・冊数,さらに江戸・大坂における出願などの手続きの日付や手続きを行った者などを対象とし,一覧にした。その結果,下記の事象が確認された。 (1)文化8年を境に江戸の作者と上方の画工との組み合わせによる作品が出現すること。 (2)そのうち,出願されてから3年以上も保留となった作品が含まれていること。 (3)(2)のうち,絵師が当初の予定から変更している事例が複数認められること。 さらに,こうした動きに大坂の河内屋嘉七と江戸の西宮弥兵衛との間の提携関係が深く関与していることも判明した。こうした一連の事象は,「本替」(書籍の等量交換)が行われていたことを想定すると説明できる。「本替」について具体的なことは佐藤悟氏によって指摘された曲亭馬琴の諸作品についてが知られるが,文化年間における「本替」は,確実に行われていたと考えられているにも関わらず不鮮明な部分が多かった。その意味で今後の研究における一つの指標となるものと考えている。この研究成果については「読本の東西往来」という題の論文として投稿し,2008年5月に刊行予定である。 さらに,文化9年にも上と同様な事象が認められ,他の本屋同士の「本替」が確認できそうである。また,そのうち,江戸と上方を繋ぐキーとなる人物として北斎の弟子筋の・一峯斎馬円という絵師の存在が浮かび上がった。この絵師が関与した作品を網羅的に調査しているが,また全ての作品をデータベース化するには至っていない(これらのことについては,本課題の最終年である20年度に調査・研究し,その成果を査読誌に投稿する予定である)。
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