資料(合巻および登場人物に関する参考文献)の収集、合巻からのデータ抽出、データベースの構築を行った。データベースは、書名・刊年・作者・世界・登場人物・所蔵機関・備考の各項目で構成した。合巻から採取する登場人物名は、原文どおりの表記で入力した。「世界」は登場人物名から同定し、適宜参考文献を参照した。データベースは誰でも容易に利用できることを第一に考え、アプリケーションソフトはエクセルを採用した。これによって、刊年や作者ごとに作品を並べ替えることができ、登場人物名で検索すれば当該の人物が登場する作品を探すことができる。ただし前述のとおり人物名を原文どおりの表記で入力しているため、同一人物でも表記が異なると検索できない。が、「世界」は表記に左右されない項目であるので、「世界」での検索を併用することでより的確に同一人物の登場作品を探すことができる。 上記の作業を通じて、今年度得られた知見は以下のようなものである。妖賊(妖術を使う盗賊)に分類される登場人物は、合巻草創期の文化期から幕末(嘉永期以降)にいたるまで、さまざまな合巻に登場しつづけている。これまで、妖賊の登場する物語は幕末の長編合巻に多く見られるように思われてきたが、こうした人物像は幕末に突如現れたものではなく、歌舞伎などを通じて文化期の合巻において既に造型されていた。それが幕末の長編合巻に特に目立つのは、続編への読者の期待をつなぐために、妖賊というキャラクターの魅力が重要視されたためと考えられる。詳細は佐藤至子「末期の長編合巻」(「江戸文学」第35号、平成18年11月、P.127〜P.139)を参照されたい。 次年度は、引き続きデータを採取し、データベースの構築につとめたい。その際に、できるだけ作品の刊行年代が偏らないように気を付けたい。また、引き続き登場人物と「世界」に着目した研究に取り組みたい。
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