本研究は、平安時代の文芸が社会的にどのような位置にあるのかを探ることを目的としている。そのために、当時の社会が天皇を頂点としているという事実に鑑み、天皇が主催する文芸生成の場(=宮廷詩宴)について、資料を収集・復元する。 本年度は、主として 1、資料の収集 2、各宮廷詩宴の注解、3、個別詩宴の読解に主眼を置いた。 1、資料収集に当たっては、活字本だけではなく、写本にも注意し、紙焼写真を購入して、本文校訂を行った。資料収集の成果の一部は、滝川『天皇と文壇-平安前期の公的文学-』(和泉書院・2007)の「宮廷詩宴年表」に取り入れた。これによって、桓武朝から一条朝の詩宴状況が一覧できたことになる。 2、宮廷詩宴には、内宴・重陽宴・花宴・曲水宴が主なものとしてあるが、それぞれ儀式書に収められる儀式次第に略注を加えた。この成果は、滝川「曲水宴考証」(詞林39・2006)、滝川『天皇と文壇-平安前期の公的文学-』(和泉書院・2007)に取り入れた。これによって、宮廷詩宴の儀式次第が明らかになった。但し、あくまで儀式書による注解であるので、それぞれの実態については、記録資料と対照して具体的に考証する必要がある。この点は次年度以降の課題である。 3、各個別の詩宴については、寛平元年九月残菊宴、村上朝の残菊宴などの読解を開始した。この作業は、次年度以後本格的に行う予定だが、寛平元年九月残菊宴は、宇多天皇が私的興趣によって開いた詩宴で、内宴など政事の一環としての詩宴とは異なっている。参加者の詩がほぼすべて残っていることもあり、読解を進めることで、当時の詩宴の具体相がつかめるはずである。
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