1『楢葉和歌集』『続門葉和歌集』所収の釈教歌のうち、経典に依拠する歌について、その典拠を調査したうえで大寺院の僧侶の思想的な基盤を検討した。平成19年和歌文学会五月例会において、その成果の一部を口頭発表し、さらに加筆・修正したうえで論文「寺院文化圏の釈教歌-『楢葉和歌集』を中心に」(『国語国文』2008.8)として公表した。この研究は、まだ途上であるため、今後も研究を継続する予定である。 2『明恵上人伝記』所収の和歌に注釈を施した。平成18年度から継続して、本文批判にのっとった正確な注釈を目指し、注釈作業の前提として『明恵上人伝記』主要伝本九本の本文を参照して校異をとり、現代語訳、語釈、考察を加え、参考文献を提示した。その成果を「『明恵上人伝記』所収和歌注釈(三)」(『十文字学園女子大学短期大学部研究紀要』2008.12)として公表し、『明恵上人伝記』所収の全和歌に関する注釈を完成させた。 3 従来から継続している明恵の和歌に関する研究の総まとめとして、明恵の和歌の全体像と後世への影響を分析してまとめた。その成果を「テクスト布置の解釈学的研究と教育」第四回国際研究集会の第四部会において発表し、「なぜ明恵は和歌を詠んだか-中世僧侶における詠歌-」(阿部泰郎編、「テクスト布置の解釈学的研究と教育」第四回国際研究集会報告書)として公表した。明恵の和歌の特質と後代への影響を探り得たことで、僧侶による和歌の特質の一端が明らかになった。
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