中世を代表する僧侶の一人である明恵の和歌の全体像を見極めた。『明恵上人伝記』所収の明恵詠の注釈を行い、申請者が従来行ってきた『明恵上人歌集』所収歌の研究と合わせて、明恵における詠歌と思想・信仰との関わりを総合的に明らかにした。あわせて、和歌に関する明恵の考えを示す発言を含む『明恵上人遺訓』の伝本研究を行い、その成立過程を分析した。 中世の寺院文化圏内で編まれた歌集『楢葉和歌集』『続門葉和歌集』『安撰和歌集』に注目し、これらの歌集に収められた釈教歌の内容や典拠を解明した。これによって、中世僧侶の釈教歌は、それぞれが所属する寺院の重んじる聖教をふまえて詠まれたものが多いという特徴が見出され、中世僧侶における詠歌と思想の具体的な関わりを明らかにし得た。
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