本年度は、まず8月5日に浄智寺(鎌倉市)において、近世に開催された琴会の復元を目的とした小規模の演奏会を催した。参加者は6名であった。続いて9月16日にはフェリス女学院大学において、物語研究会ミニシンポジウム「唐物と楽器-七弦琴を軸にして、その実演を聴く-」を開催した。文学からのアプローチ、また歴史学からのアプローチ、さらに琴演奏を行うことによって、多角的な視点からの議論となった。 2月には、『日本琴學』と題する解説書付の音楽CDを作成した。収録曲は、「碣石調幽蘭第五」「流水」「陽春」「白雪」「風入松」「昭引君」「漁樵問答」「歸去來辭」の8曲である。いずれも日本文学(古代から近世)を考察する上で最も重要なものを厳選している。また、解説を重視し、全曲目にわたって詳細な考察が記されている。依拠した楽譜も学術的復元という観点から最も信頼できるものを選び、また楽器自体も絹絃を使用するなど前近代の音色に近づくように配慮しつつ、録音を行った。完成後は、各方面の識者に郵送配布し、好評を得た。中国の民族音楽としての琴ではなく、あくまで日本文化を射程とした製作物であり、その点の先進性は高く評価されるべきである。 3月には『山陰中央新報』(2007.3.17付)に「七絃琴の響き-幻の絃楽器の魅力」として文章を掲載した。特に山陰歴史館所蔵の二張りの琴(江戸時代製作)を紹介しつつ、広範囲にわたりつつも、地域性を重視した解説を加えた。 一方、中世前期までの日本文学における「琴」の用例の悉皆調査も同時に行っており、現在までほぼ半数の調査が終了している。
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