平成18年度は、亡命ロシア社会についての背景知識を深めることを第一の目標とし、近年ロシアで出版された亡命ロシア関係の資料を中心に研究を進めた。現段階では具体的な成果の形としてまとめるには至っていないが、本研究課題で扱おうとしているさまざまな問題について、一定の知見を得ることができたと思う。 諸般の事情により、目標としていた国際学会での報告等は断念せざるを得なかったが、12月に北大スラブ研究センターで行われた国際シンポジウムにおいて、ドイツにおけるロシア系移民の問題を研究しているフンボルト大学のツィピルマ・ダリエヴァ氏、ジェンダーの視点を取り入れながらロシアおよびバルト地域の映像・文化を研究しているラトビア大のイリーナ・ノヴィコヴァ氏などと意見交換を行えたことは非常に有意義であった。 亡命やディアスポラ・越境をめぐる問題は、グローバル化がすすむ現代においてますます尖鋭化している。近年、「越境」というキーワードをタイトルに掲げた研究が数多くある中で、本研究課題が扱おうとしている時代や対象をどのように位置づけるべきか、明確な問題意識と周到な計画をもって課題に当たる必要があることを痛感した。多数みられる「越境」研究の多くは、現代の多文化的状況を扱うアクチュアルな文化研究・社会分析といった側面が強い。前世紀の亡命ロシアの歴史的遺産を見直すことによって得られる教訓を現代にどうフィードバックしていけるかを考慮しながら、18年度の成果と反省を今後の研究につなげていきたい。
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