本年度は、まず、第一次大戦に関する先行研究(歴史研究、文化研究、文学研究)の成果を収集・整理・再考した。 この作業と同時進行で、D.H.ロレンス『チャタレー夫人の恋人』を、「大戦後遺症」という文化的文脈の中で考察する作業を進めた。特に、大戦間期イギリスにおけるファシズム文化・ワーグナー文化との関係において、このテクストを分析した。研究の結果として、ドイツ・ナチス文化に吸収されたワーグナー文化が、ドイツの場合とは大きく異なる形でイギリス・ファシズム文化の中に受容されていく過程を明らかにした。その成果の一部は、日本ロレンス協会第37回大会慶應義塾大学、2006年6月24日)におけるワークショップ「ロレンスとファシズム的文化」にて、「ファシズム的文化、ワーグナー文化、ロレンス」として発表した. 9月には、イギリスの帝国戦争博物館を中心に、資料・情報を収集した。この作業によって、大戦(間)期イギリスの文化的コンテクストを復元するために必要な資料・文献を確保することができた. 文化的コンテクストの復元と同時に、『チャタレー夫人の恋人』を中心とした大戦後遺症研究は、その後も継続している。主に当時の文学作品、シェル・ショック論、精神分析、政治思想に関する資料の収集・分析を通して、特に、大戦時の塹壕の体験の記憶が、その後のイギリス文学・文化における性・身体・階級・共同体の認識に大きな影響を与えた様子をある程度明らかにすることができた。このテーマをさらに完成へと近づけるためには、分野横断的にさらに大量のテクストの読み込みと緻密な分析が必要となる。この点は、次年度の課題としたい。
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