本年度は、平成18、19年度の研究成果を踏まえ、それをさらに深化・発展させた。大戦(間)期イギリスの一次資料(文学、政治、社会、精神分析、大衆文化、メディアなど)の分析を中心に行いつつ、研究の射程を現代にまで拡大し、現代的視座から当時のイギリス文化状況を逆照射することで、現代にまでいたる第一次大戦の「記憶」における大戦(間)期イギリス文化の第一次大戦「後遺症」の影響力を解析することを目指した。9月には、イギリスの帝国戦争博物館とノッティンガムを中心に、第一次大戦とD.H.ロレンスに関する現地調査・資料収集を行うことで、研究の実証性を強化すると同時に、研究の学際性を拡大することができた。 <海外新潮>「作家の受容と「世界」の視座」では、D.H.ロレンス文学の異文化への受容の様子について、第一次大戦という時代状況をも視野に入れつつ論じた。<海外新潮>'The Last Tomm's 110^<th> Birthda'では、第一次大戦の「後遺症」・「記憶」・「神話」の現代的意味について論じた。<海外新>「大戦文学の系譜学に向けて」では、第一次大戦研究の最新の動向と現代文学の出版状況を紹介しつつ、大戦期の文学から現代文学にいたる「大戦文学」の系譜学の重要性と、その系譜における第一次大戦後遺症の位置の明確化の必要性について論じた。 「大戦(間)期」という当初の計画よりも、時代の射程が現代にまで拡大したが、結果的に「大戦(間)期」の特徴と相対的位置付けを明らかにすることができ、「大戦後遺症」の歴史的意味をより明確にすることができたことは、意義深いと考えている。
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