今年度は、20世紀ロシア文学の連続的な生成プロセスの様態について、以下の3つのトピックスを中心に研究した。第1の研究テーマは、アンドレイ・ベールイを中心とするロシア象徴主義における、19世紀文学の継承性、ロシア・アヴァンギャルドとの関連の問題である。今年度も昨年にひきつづき、東京大学図書館等でロシア象徴主義関連資料、20世紀ロシア文学新聞・雑誌の資料収集を行い、アンドレイ・ベールイの作品論を発表した。また、ベールイについての単著の一部を執筆した。平成20年7月には、ロシア人文大学ワレーリー・チューパ教授と討議を行い、ベールイのジャンルの問題についての考察を深めた。第2に、ロシアとグルジアの象徴主義運動の関連についても資料を収集し、1920年代のチフリスの文学状況について、ニコ・ピロスマニの作品との関係を中心に、亡命文学も視野に入れつつ小論をまとめた。象徴主義文学を幅広いコンテクストで捉えるために、ロシア・アヴァンギャルドへの影響、さらにアヴァンギャルドとソ連非公式文化(カバコフ、ルビンシュテイン、プリゴフらを中心とするモスクワ・コンセプチュアリズム、ソッツアート等)の連続性についてもひきつづき考察を続け、今年度はカバコフの絵本論を発表した。また、研究の成果の一部は来年度に発表される予定であり、非公式文化の一例であるモナスティルスキーらの「集団行為」のテクストとパフォーマンス等についても資料の収集と解釈を行った。
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