本年度は、研究初年度として、シェイクスピア受容に関連する資料を広範に収集することを、その中心的作業とした。具体的には、『シェイクスピア翻訳文学書全集』を購入し、同全集に所収されたシェイクスピア翻訳受容資料の分析・検討を行った。ここでの分析・検討は、来年度以降の研究の基礎となるものである。 さらに、そうした歴史的資料の分析と平行して、現時点における最新のシェイクスピア翻訳である、松岡和子の翻訳業績について、それをフェミニズム・ジェンダー研究の視点から批判的分析を行った。松岡氏、実質的に日本で最初の女性のシェイクスピア翻訳者であり、本人もそのことに自覚的である。また、公的な席で、「自身はフェミニストである」旨の発言もしている。近藤は、オーストラリアのブリスベンで開催されたシェイクスピア国際学会大会Shakespeare Congressにおけるセミナー「World Feminisms and Shakespearean Studies」に参加し、松岡の翻訳の日本におけるシェイクスピア受容史上の重要性を指摘するとともに、その限界を指摘する研究発表を行い、世界の研究者(アジアの研究者を含む)との批評的対話を通して分析の妥当性を検証した。さらに近藤は、東北学院大学で開催された日本シェイクスピア協会年次大会におけるセミナー「シェイクスピアと異文化プロダクション」に参加し、日本の研究者との批評的対話を通して松岡の翻訳に関する自己の分析の妥当性を検証するとともに、考察を深化させた。同セミナーにおいて、近藤は、「異文化プロダクション」を考察する上で、ジェンダーを考慮に入れることの重要性、および上演の実際的制約を考慮に入れることの必要性を指摘した。
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