18年度はまず、Maria EdgeworthとWalter Scottの比較研究に重点をおいた。Scottの「歴史小説」がそれまで準文学的な存在であった「小説」ジャンルを文学に昇格したという先行研究を踏まえ、EdgeworthがScottに与えた影響は、「歴史小説」というサブジャンルの形成に留まらず、文学としての「小説」確立へも寄与していることを示唆する間テクスト性を探った。「英国小説起源論」に理論的な関連が深いが、そのイングランド中心に傾きがちなパラダイムをアイルランドやスコットランドの小説批評へ安易に援用することの弊害を、Joe Clearyらの知見を通して確認した。成果として、日本ジョンソン協会大会シンポジウム(招聘)と英国Southampton大学・Chawton House図書館共催The Wild Irish Girls Conferenceにおける口頭発表、近刊の論文「小説、ネイション、歴史-マライア・エッジワースとウォルター・スコット」、Clearyの論を含めた最近のアイルランド小説批評の書評(『英語青年』5月号)が挙げられる。 Jane Austenに関しては、Sanditonにおける理想の愛国者の表象を再訪し、その成果は近刊の入門書解説に収録した。復刻版『ロイタラー』(Austenの兄がオックスフォード在学中出版)の解説依頼で、18世紀英国の学生による定期刊行物を包括的に概観し、理想の愛国者としての専門職養成機関で展開した出版文化(政治・文芸ジャーナリストとして活躍することになる学生寄稿者達のペルソナ形成を含めて)に理解を深める機会を得た事も、視野を広げることになった。 これらの成果の根底には、英国(大英図書館、スコットランド国立図書館等)と北米(ニューヨーク公立図書館、イェール大学バイネキー図書館等)における国内では閲覧困難な一次資料(手稿を含む)の調査がある。
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